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大阪高等裁判所 平成5年(う)639号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年六月に処する。

原審における未決勾留日数中七〇日を右刑に算入する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤一袋(当庁平成五年押第二二一号の1)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人及び弁護人藤沢正弘作成の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、いずれも原判決の量刑不当を主張し、被告人を懲役二年六月に処した原判決の刑は重過ぎて不当であり、また、原判決が原審における未決勾留日数を全く本刑に算入しなかつたことも不当である、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに、本件は、覚せい剤の自己使用二件(原判示第一及び第三の事実)及び所持一件(量は〇・〇七四グラム、原判示第二の事実)の事案であるところ、被告人は、いずれも本件と同種の覚せい剤事犯による原判示の累犯前科三犯を重ねながら、その最後の刑を終えてから七か月も経たないうちに、妻が突然所在不明になつて気分がいらいらしたということから、すすんで覚せい剤を買い求めて原判示第一及び第二の各犯行に及び、更に、これらの事件についての保釈中に、路上で覚せい剤の売人から誘いかけられるや又もや覚せい剤を買い求めて原判示第三の犯行に及んだものであつて、このような本件各犯行の動機及び反復状況と被告人の前科に照らすと、被告人の覚せい剤に対する依存性及び親和性は顕著で、本件の犯情は重いというべきであり、従つて、被告人の反省状況等被告人のために酌むべき諸情状を考慮しても、被告人を懲役二年六月に処した原判決の刑が重過ぎて不当であるとは認められない。

ところで、記録によれば、被告人は、平成四年一二月一三日に原判示第二の事実により勾留されて、そのまま同月二二日に同事実について起訴され、平成五年一月二八日に原判示第一の事実について追起訴されて、原審第一回公判期日から右両事実について併合審理を受け、同年二月二二日に保釈により釈放されたが、その保釈中の同年四月一五日に原判示第三の事実により勾留されて、そのまま同月二三日に同事実について起訴され、この事件も併合審理のうえ、同年六月一一日に原判決の宣告を受けたもので、原審における被告人の未決勾留日数は、全部で一二九日、右各勾留事実についての起訴後の分だけでも合計一一二日にのぼることが明らかである。そして、原審での審理の経過をみると、本件は全部自白事件であり、原判示第一の事実については原判示第二の事実と同時に起訴できたものと窺われるところ、原判示第一及び第二の事実に関しては、前記の保釈による釈放までに二回の公判期日の審理により一旦結審されたが、その後、原判示第三の事実の併合審理のために弁論の再開があつて、一回の公判期日で同事実を併合審理して結審されたことが記録上明らかであつて、このような原審の審理の経過に照らすと、刑法二一条の裁量による未決勾留日数の本刑算入の趣旨からして、本件では前記の原審における未決勾留日数のうち七〇日は本刑に算入するのが相当と認められ、原判決が右未決勾留日数を全く本刑に算入しなかつたことは不当であるというべきである。論旨は、この限りで理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書により更に判決することとし、原判決の認定した事実にその挙示する各法条(当審における訴訟費用についても刑事訴訟法一八一条一項ただし書を適用)のほか、原審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上保之助 裁判官 米田俊昭 裁判官 楢崎康英)

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